#8 アヤメvsマリリ


背中に4発もの銃弾を撃ち込まれて、30分以上経っていたにも関わらず、アヤメはまだ生きていた。


ミオはとっくにその場から立ち去っていたが、いずれにしても、もはやそんなことは、アヤメの知るところではなかった。


今、アヤメは、薄れゆく意識の中で、ぼんやりとした夢を見ていた。


知り合いが大勢、アヤメに向かって手を振っていた。


乙女新党の仲間たちだ。


しっかりしているようにみえて、実は甘えん坊のチカが、しきりに泣いているのが分かった。


「さよなら、アヤメちゃん。さよなら…」


はぁ…。


アヤメは、その夢の中で、溜め息をついた。


ちっか、上手くやったな。


それが、正直な感想だった。


ヲタ相手で、その先の展望がない新党に、さっさと見切りをつけ、『高校受験』を言い訳に、みごと脱出成功。女優としてのキャリアの汚点を最小限で食い止め、っていうか、封印?


うん。完全にうまくやられた。




と、ここで、場面が変わって、次はハワイの砂浜だった。


ニコプチの水着ロケ。


エースだった私は、中1、中2と、2年連続で参加した。


はぁ。。。再び溜息。


それに比べ、今はどうだ?


ピチモとして2年以上のキャリアがありながら、表紙回数はたった1回だけ。


鳴り物入りで加入した、「元ニコプチエース」の名が泣く。


どうして、こうなっちゃったんだろう。。。


今思うと、ニコプチ時代が、人生で最も輝いていた時期かもしれない。




さらに場面が変わって。


こんどは、どこかのスタジオに立っていた。


テレビの「子役恋物語」の撮影現場だ。


アヤメの番が来る。


「びじょんふぁくとりーから来ました、タジリアヤメです」。


こんなのに出たからか、すっかり「アヤメは恋が多そう」だの、「恋愛に詳しそう」だの、小悪魔キャラのイメージが定着してしまった。


事実、後輩ピチモからも、恋愛の相談を受けることも多い。


でも、そんなの勝手な想像だ。


現実の私は、全然そんなじゃない。


そもそも、あれはすべて台本だし。


はぁ。。。3度目の溜息。





ふと、耳元で懐かしい声が聞こえる。


「アヤメー! アヤメ~!!!!」


ここで、アヤメは、残る最後の力を振り絞り、もう一度だけ覚醒した。


ぼんやり、目を開けてみる。


するとそこには、ニコプチ時代の後輩マリリが、穏やかな日差しの中で、心配そうに自分を見下ろしていた。


これは…夢?


「アヤメ先輩、しっかりして下さい!」


「マリリちゃん? マリリちゃん…なの?」


相変わらず、こんなときでも「会話がいつでも疑問形」の本領発揮である。


「そうです、マリリです」


マリリが、ニコプチに加入した、最初の撮影。


それは横浜でのロケだったが、そこで一緒になった先輩のうち、緊張していたマリリに最初に話しかけてくれたのが、アヤメだった。


当時のアヤメはプチモの大エースであり、新人のマリリにとっては、とにかく憧れの存在。もちろん今、こうして両者ピチモとなってからも、最も尊敬する先輩なのである。


「マリリ…ちゃん。ところで、その前髪、どうしたの?」


衰弱しきった声で、尋ねる。


「はい。ちょっと切りすぎまして…」


あぁ、この人は、こんなときでも。


もはや助からないであろうアヤメの衰弱ぶりを前に、マリリ、涙声になる。


「フフフ」


アヤメ、無理やりに笑顔を作って。


「泣かないで、マリリちゃん」


ややあって。


「これ、いったい、だれにやられたんです?」


意を決したように、尋ねるマリリ。


「…ミオ。気をつけてね。あのコ…やる気だから」


マリリは頷いた。


すると、最後の願いとばかりにアヤメが懇願する。


「ねぇ…ちょっと、アヤメを起こしてくれる?」


そこで、横になっていたアヤメの上半身を、マリリが手を添えて起こし、その胸に抱きかかえる。


アヤメは、もはや自分があまり言葉を喋れないのが分かっていた。残った力を振り絞るように口を開く。


「マリリちゃん、…ホント、スタイルいいし、色っぽいし、美人になったね。絶対、生き残って帰って、ピチレでもエースになって…ね」


これが、アヤメの最期の言葉となった。