#3 リコアイvsハルカ


ピチモ随一の仲良しコンビ「りこあい」こと、リコとアイ。


当然、ふたりはバトル開始以来、行動を共にしている。


「りっちゃん」


「うん?」


「ごめん。あい、最後まで、りっちゃんのこと、護ってあげられないかもしれない」


「…」


「あいたち、殺されちゃうかもしれない」


ここでアイ、言いづらそうに少々間を取り、やがて小さな声で付け加える。


「…ののすーみたいに」


この"死のゲーム"について、みんなを代表して抗議したノノカとスミレは、すでにバトル開始の前に、全員の目の前で殺害されている。


「覚悟、いい?」


「うん。覚悟できてるよぉ」


「そっか。エライよ、りっちゃん」


まるで子供か妹のように、リコの頭をなでるアイ。


リコも、子ども扱いされることに、まんざらでもなさそうである。


ふと、ここで、2人の耳に不気味な音が届く。


<ガサガサガサ>


凍りつくリコとアイ。


と、次の瞬間。


やや前方の茂みが揺れ、そこからヒョイと、人影が現れる。


そして人影は、そのまま、こちらに近づいてくる。 


「わぁ! 誰か、やっててくるよぉ」


リコ、たまらずアイに抱きつく。


「だいじょぶだって。落ち着いて、りっちゃん。あいがついてる」


アイは、リコやさしく抱きとめてから、いったん体を離すと、リコに自分の背中に隠れるよう促す。


「いい? アイの後ろで、じっとしてて。動いちゃ、ダメだよ」


こう言うと、武器として受け取った短銃を、近づいてくる人影に向けて構えた。


その間も、一歩一歩、着実に人影は歩み寄ってくる。


アイ、いよいよ、人影の頭部に照準を合わせ、引き金に指をかける。


と、ここで、突然、近づいてきた人影が叫んだ。


「やだ~、あい。うちだよ。はるかだよ~」


なんと、その人影は、ピチレのエース、ハルカであった。


ここで、ナゾの人影が、仲良しのハルカであったことが分かり、安心しきったリコ。


アイの背後から、跳ねるように飛び出す。


「わぁ~、はるんだ♪ あい~! はるんだよぉ♪」


先ほどの恐れはどこへやら。一転、声が、嬉しさで弾んでいる。


しかし、これにアイは、ちょっとした違和感を覚えた。


「会えてホントよかったぁ。うちも、リコたちの仲間に入れて」


対して、ハルカも、安心したように、話しかけてくる。


リコも、ニコニコしてアイの方を見る。


当然、同意してくれるものと思って。


しかし、一瞬にして、そのリコの大きな目が、驚きで丸くなった。


アイが、いまだ銃口をハルカに向けたまま、下げていないのである。


「アイ?? どーしたの?」


「うそ~? なんで、まだそんなもの、ハルカに向けてるん?」


和やかな空気に包まれる2人と対照的に、アイは、なぜか真剣な表情を崩していない。


息を吸い込み、銃を向けたまま、ハルカに強い口調で命令する。


その距離、わずか数メートル。


「動かないで!」


「なんで? あい。はるんだよぉ。はるんは信用できるよぉ」


しかし、アイは黙って首を振る。


「やだ~。うちのこと、なんで信用してくれないの?」


「そうだよぉ、あい。はるんは…」


「黙って、りっちゃん!!!」
 

リコを制し、アイが続ける。


「とにかく、アナタとは組めない」


有無を言わせぬ雰囲気である。


しかし、ここで、天真爛漫(てんしんらんまん)のハルカは、かまわず前へ歩み出した。


「ねぇ、うちも仲間に入れて」


懇願(こんがん)するように、一歩また一歩と近づいてくる。


「来ないでっ!!」


アイは銃口を下に向け、ハルカの足もとを狙い、ここではじめて引き金を引いた。


≪ぱん≫

乾いた音とともに、ハルカの足元で、土ぼこりが舞い上がった。


これにハルカは、一瞬ビクッと、歩くのを止めたが、すぐに再び歩みを始める。


「止まって! とにかく止まって!」


それでも、歩みを止めないハルカ。      


「お願い。あいってば~」


「止まってちょうだい」


「仲間に入れてアラモ~ド☆」

ハルカは、もはやゼンマイ仕掛けの壊れた操り人形のように、歩みをやめない。

そして―――

<ぱん>

2度目の乾いた音が辺り一面に響き渡った。







「なっ、なんで!! アイ、なんで撃ったの!!」


「う…うん。もし、あの子が、はるかが、なにか武器を隠し持ってたらいけないと思って」


「ひっ、ひどいよぉ。あんまだよぉ」


「あのね、りっちゃん…」


「はるんは、そんな子じゃないって」


「聞いて」


「なんで、信じてあげなかったの?」


「ちょっと」


「あ~っ、あい。まさかぁ…まさかぁ」


「何よ?」


「私のことも、”護る”とか言って。まさか…まさか…」


「だから何? 何が言いたいのよ」


と、ここで、アイの瞳から、たまらず大粒の涙がこぼれ落ちる。


「ひゃっ!? ア…イ?」


アイ、手に持っていた銃をリコに渡し、うつむいたまま涙声で語り始める。


「あのね、あいね。りっちゃんを…護らなくちゃって」


「…」


「もう、その一心で」


「…」


「だから、はるかを撃ったんだよ」


ここで視線を上げ、正面からリコを見つめるアイ。


「そんなに、アイのこと信じられないんだったら、今すぐこれで、あいも撃って!」


2人の間に、長い沈黙が訪れる。


そして。


「うぅぅぅぅ…」


くしゃくしゃの泣き顔になって、嗚咽(おえつ)を漏らすリコ。


「うぇ~ん。ご、ごめんね~、アイ。ホントごめんなさい」


そのまま、アイに抱きつく。


「りっちゃん…」


「アイの気持ちを(ひっく)、私(ひっく)、全然(ひっく)」


「りっちゃん。いいよ、もう。分かってくれれば」


リコの髪を優しくなでながら、アイが、ようやく微笑む。


「あいぃ~」


こうして2人、そのまましばらく抱き合っていた。