#1 モカリョウの絆


島の北端、切り立った崖の上。


見下ろすはるか下からは、打ち寄せる波の大きな音が聞こえている。


そんな崖の端っこに、モカとリョウの2人が、仲良く並んで腰かけていた。


しっかりと、手をつないでいる。


2人の脚の、ひざから下は、ぶらんと崖の下に向かって投げ出されていた。


「静かだね」


リョウがつぶやく。


男の子みたいなショートカットに、170を超す身長。バスケで鍛えた胸板も厚く、まさに見た目は"頼れる男子キャラ"である。


「うん。そうだね」


モカは、そんなリョウの姿を横から見つめつつ、実は、外見に反し、中身は純真な乙女であるこの親友のことを思う。


「うちら、もう一緒に事務所のレッスンも受けられないし、一緒にピチ撮もできない。もちろん、一緒に遊びにも行けない」


「おりょう。でもね―――」


モカが何か言いかけるのを、リョウ、いくぶん強い調子でさえぎって。


「ううん、いいの。もう、抵抗できないんだ」


モカが言葉を捜している間、もう一度繰り返して。


「抵抗なんて、最初からできないの」


リョウ、ここで小さく深呼吸する。


「とにかく、モカ。うちは、最後に、モカに会っておきたかったの」


モカは、黙ってリョウの続きを待つ。


「これから、きっと恐ろしいことが起こる。ううん、もうそれは始まっているのかもしれない。だって、ついさっきまで、ほんのさっきまで、みんなピチモだったんだよ。みんな仲良しの。なのに…友達だったのに…仲間だったのに…それが殺し合うんだもんね」


リョウ、そう口にすると、小さくぶるっと震えた。


つないだままの手から、その震えがモカにも伝わる。


「でもね、モカ。うちは、こういうの耐えられない。こんな…こんなこと」


もちろん、そうだろう。


リョウは、ピチモの中でも、とくに正義感が強く、曲がったことが大嫌い。それでいて、傷つきやすく繊細で、人一倍感受性の強い、優しい女の子である。


モカは、そんなリョウの気持ちが手に取るように分かった。


「それに…」


リョウが、また口を開く。


モカは、いつもより口数の多いリョウに一瞬戸惑う。普段、こうして2人っきりのとき、主に喋っているのは自分ばかりであるから。


ただし、この理不尽な状況が、そうさせていることは分かっているので、とにかく今は聞き役に徹することにする。


「それに?」


「うちら、もう2人一緒に戻れない。万一、うちらのどっちか1人が帰れたとしても、2人一緒は無理。たとえ万万が一、うちだけが生き残ったとしても、モカがいないなんて…そんなの耐えられない。だから…」


リョウは、ここで言葉を切った。


モカには、この後、リョウが何を言いたいのか、ハッキリとわかっていた。


リョウは、その先は言わず、ただ一言。


「でもね、モカだけは生きて…」


これにモカは、苦笑いし、握った手に力を込める。そして、改めて、ハッキリ笑顔をつくって首を振る。


「そりゃひどいよ、おりょう。たとえ、私が生き残っても、おりょうがいない世界なんて、ゼッタイ無理。私を、独りぼっちにしないでよ」


これを聞いて、リョウの瞳から、ふいに大粒の涙がぽろっとこぼれ落ちた。


と、そのとき。


≪がさっ≫


2人の背後の茂みが、不気味に音を立てた。


明らかに、人の気配がする。


そしてそれは、2人にとって、合図となった。


おぞましい殺し合いに巻き込まれるくらいなら、その前に、さっさとこの世を去る。


先ほど、最後まで言わなかった、リョウの望み。


無言で見つめあい、頷きあうと、次の瞬間―――


2人の身体が、断崖から飛び立ち、空に舞った。


最後まで、その手はつないだまま。