リコの手記


リコが目覚めたのは、病院らしき部屋のベッドの上だった。


それから半日近くたった今も、まだベッドの中にいる。どうやら、自分は事故にあい、ここに運ばれたようだ。


実際、頭が重い。ボーっとしていて、意識がハッキリ戻っていない感じだ。とはいえ、身体には特に異常はないようで、手足を動かしても、別段痛いところは無い。


どうして、私はここにいるのだろう? 自分にいったい何が起こったんだろう?


そこで改めて、今朝目覚めてから、これまで起こったことを思い返してみる。


目を覚ましてからしばらくたってのこと。白衣を着た女性、医師らしき人が枕元で言った。


「あなたたちのロケバスが、海に転落したの。乗っていた専属モデル29人中、28人が亡くなった。生き残ったのは、あなた1人だけ」


そうだ。あれは確か、高2ピチモの卒業式ロケを兼ねた、全員ピチ撮。わたしたち29人は、普段のワゴン型のロケバスではなく、大型バスに詰め込まれ、郊外のスタジオに向かっていた。


じょじょに記憶が戻りつつある。


と同時に、あれは事故なんかじゃない。バスは転落してなんかない。もどかしさや口惜しさといった言葉では言い表せないような、強い思いがこみ上げてくる。


そして今、おぼろげながら思い出した。


あの日、あのピチ撮の現場で、いったい何が起こったのか、どんな残酷で悲惨な、おぞましい事件が起こったのか。


私には、あの事件のたった1人の生き残りとして、自身の知りうる限りの事実をここに記しておく義務がある。


そう決心すると、リコはベッドから身を起こし、手近にあった紙とペンを手に取った。